根がらみ

住宅工事用足場の根がらみには高さの制限がありますか

(2015年1月14日 掲載)

根がらみの高さ
 現代の住宅建築は、逆T字型のコンクリートが連続した布基礎や建築物の直下全面を鉄筋コンクリートで覆ったベタ基礎が主流になっていますが、かつての和風建築は玉石に柱をのせただけの独立基礎が主流でした。 この場合、床下が高いこともあり、脚部を木製の板で連結させることで強度を維持していました。これを根がらみまたは根がらみ貫といいます。
 仮設の足場も同様で、脚部に支柱を相互に連結する根がらみを設けることで、設置中に何らかの力が足元に作用しても、支柱が横ずれすることを防いでくれます。 とくに、斜材(筋かい)から伝達される風荷重等の水平力は1本の支柱の基部に集中することから、根がらみはそれを分散する効果があるとされています。 また、根がらみは、支柱の不等沈下を防止する役割も果たしています。
 ところで、労働安全衛生規則570条は、「足場の脚部には、足場の滑動または沈下を防止するため、ベース金具を用い、かつ、敷板、敷角等を用い、根がらみを設ける等の措置を講ずること」としていますが、高さへの言及はありません。 一方、厚生労働省が平成8年に策定した「足場先行工法のガイドライン」は、「イ 根がらみは、できる限り低い位置に設置すること。ロ 根がらみをはずした開口部等がある場合には、筋かい等で補強すること」としています。
 ここで、「できる限り低い位置」とは、どのくらいの高さをいうのでしょうか。
 仮設工業会は「くさび緊結式足場の組立ておよび使用に関する技術基準」を2003年に制定しています(2015年に改訂)。 この技術基準は、ビケ足場を含むくさび緊結式足場を45m以下の高さに組立、使用する場合について規定しています。 ここでは、その中の「軒の高さ10m未満の木造家屋等低層住宅の建築工事に使用される」住宅工事用足場について検討してみます。
 技術基準は、その解説で、住宅工事用足場は「ビル工事用足場と比較して自重が小さいため、支柱最下端の緊結部に設けられた緊結部付布材を根がらみとみなす」としています。 では、緊結部付布材をできる限り低い位置に設置したときの高さはどうなるのでしょうか。
 右の図を見てください。
 くさび緊結式足場は、システム足場といわれ、規格寸法が決まっています。 ビケ足場の場合、くさびを叩き込むコマの垂直方向の間隔は475㎜の倍数になっています。 作業空間である1層の高さは475㎜の4倍である1900㎜です。2階建て住宅の工事用足場の場合、軒天がフラットだとすると、2層目の踏板を軒天から1800㎜下がりで設定するのが標準です。 さらに、層高1900㎜下がりのところに1層目の踏板がきます(新築工事は工事の進捗により軒の形状が変化するので、一概に1800㎜とはいえない)。
 軒天から地盤(GL=グランドレベル)まで5900㎜という建物を想定してみます(図1)。 この場合、1層目とGLの距離は2200㎜です。そうすると475㎜×4倍の1900㎜の支柱が1層目とGLの間にちょうど、はいることになります。 支柱の下端とGLの間隔は300㎜です。コマは支柱の下端から約420㎜の位置に溶接されているので、根がらみは300+420=720㎜くらいの高さになります。
 ビケ足場の開発当初は、このように根がらみ高さは420㎜から900㎜の範囲で設定することが一般的でした。 しかし、根がらみが高すぎると地上の通行の支障になるため外されたり(とくに建物と垂直方向の根がらみが外されることが多い)、強度面でも減殺された効果しか期待できません。 そこで、1990年ころ、根がらみ専用の支柱が開発されます。この支柱は、通常の支柱の下端にコマ部分を溶接したものです。コマ部分だけ単独の支柱になったものもあります。
 この支柱を用いると、図1の例では、高さ250㎜前後の位置に根がらみを設けることができます。 このコマ部分の長さは130㎜~145㎜です。
 では、高さが5700㎜の建物の場合はどうでしょうか。この場合は、根がらみ専用の支柱を用いない支柱の下端がGLレベルから100㎜の高さのとき、2層目~軒天が標準的な高さの1800㎜になります。 この場合は根がらみ用支柱を、最下端に用いることができません(挿入できません)。そうすると、根がらみの高さは100㎜+420㎜で520㎜になります(図2)。
 このように、根がらみの高さは、建物の高さによって150㎜~600㎜の範囲で上下します。 とくに日本の建物は、軒のある家がほとんどなので、足場の高さを設定するときに軒天の作業性を優先的に考え、1層目の高さで調整する(つまり、根がらみの高さを変える)ことが必要です。 枠組足場のような鋼管足場は、下から層ごとに積み上げるため、こうした調整機能がありません。枠組足場が住宅現場で支持されなかった一因です。
 「ガイドライン」で「できるだけ低く」と規定しているのは、こうした設定範囲の幅を考慮したものと考えることができます。
 ところで、根がらみの高さを一定に設定した場合を考えてみます。 一般に、手が届かない高さの設定は考えられないので、軒天から2層目の最高間隔は2000㎜が限度です。 2000㎜を超える場合、たとえば2050㎜になるときは、踏板を1段、高く設定することになり、2050㎜-475㎜で1575㎜の空間で作業することになります。 これでは、中腰の作業を強いられ、また通行も困難です。作業性の劣る現場は、安全面でも支障があります。
 実際の現場は、不陸や勾配があります。根がらみの高さを硬直的に考えると、本末転倒の結果になります。 また、根がらみがやや高くなった場合に、足場の強度が著しく低下するという証明はありません。 技術基準が、住宅工事用足場は「自重が小さい」ため、緊結部付布材を根がらみとしてみなすことができるとしているのも、そのためです。(文と絵・松田)
※ 根がらみの設置方法やビル工事用足場の根がらみの設置基準は、次のシリーズで解説します。

【参考】
労働安全衛生規則 第570条
 事業者は、鋼管足場については、次に定めるところに適合したものでなければ使用してはならない。
一 足場(脚輪を取り付けた移動式足場を除く。)の脚部には、足場の滑動又は沈下を防止するため、ベース金具を用い、かつ、敷板、敷角等を用い、根がらみを設ける等の措置を講ずること。(以下略)
足場先行工法のガイドライン
(5)根がらみ
イ 根がらみは、できる限り低い位置に設置すること。 ロ 根がらみをはずした開口部等がある場合には、筋かい等で補強すること。
くさび緊結式足場の組立て及び使用に関する技術基準(仮設工業会)
(3) 足場の脚部

 足場の脚部は、沈下及び滑動防止のため次の措置を施すこと。 ① 足場を組立てる地盤は、堅固な場所とする。
② ねじ管式ジャッキ型ベース金具の下には、地盤の状況に応じて敷板(しきいた)又は敷盤(しきばん)を使用する
③ 敷板を使用する場合は、ねじ管式ジャッキ型ベース金具を2本以上の釘等により敷板に固定し、敷盤を使用する場合は、ねじ管式ジャッキ型ベース金具を敷盤の使用方法に従い固定する。
④ 桁行方向、梁間方向それぞれに根がらみを設置する。ただし、ねじ管式ジャッキベース型金具を2本以上の釘等により敷板に固定した場合は、桁行方向の根がらみを省略できる。
⑤ 根がらみは、できる限り地面から近い位置に設置し、各緊結部付支柱に緊結する。
(足場の脚部に関する記述は、ビル工事用足場と住宅工事用足場で同じ)