一側足場の使用範囲の明確化
労働安全衛生規則改正(2024年4月施行)

労働安全衛生規則が改正され、足場は原則として本足場とするということですが、その詳細を教えてください

(2023年12月19日 掲載)

 2024年4月1日から改正労働安全衛生規則が施行され、幅が1メートル以上ある箇所に足場を設置する場合、原則として本足場を設置することが必要になります。幅が1メートル以上とは、足場を設置する対象の建築物等の外面から直交方向の水平距離が1メートル以上、足場の設置スペースが存在することです。
 改正規則は2023年3月14日に公布され、この「①一側足場の使用範囲の明確化」と合わせて「②足場点検時の点検者の指名の義務化」ならびに「③足場点検後の記録および当該記録の保存の義務化」が追加されました。なお、①は2024年4月1日からの施行ですが、②と③は2023年10月1日に施行済みです、ここでは①の「一側足場の使用範囲の明確化」について解説します。

本足場施工し、後踏み側に足場先行工法による手すり、前踏み側に2段手すりと幅木を設置した施工例
ビケ足場では、建物と作業床の間隔を30センチとした場合、前踏み側の建地(支柱)と建物のすき間は20センチになるので、写真のように20センチの厚みのシャッターボックスでも建地と干渉する。
 一側足場が災害の要因のひとつ?
 なぜ、このような条文が規則に追加されたかというと、十分な敷地の余裕があるにも関わらず、建物等の外壁面に平行に建地(支柱)を一列に組み立てる一側足場が施工される事例が多く見られ、これらの足場には手すりなどの安全設備を兼ね備えていないことがあるからです。
 厳密にいうと、そもそも一側足場には法令上、手すりなどの安全設備の設置義務がありません。労働安全衛生規則563条第1項は足場の作業床の要件を定めていますが、「一側足場は除く」となっています。墜落防止設備としての手すり、作業床の幅や作業床間の隙間、物体が落下することを防ぐ幅木等については、厚生労働省の通知や通達として示されることもありますが、労働安全衛生法を実施する省令である労働安全衛生規則が一側足場を除外しています。
 このように、本足場(建物等の外壁面に平行に建地(支柱)を二列に組み立てる足場)の設置が可能であるにもかかわらず、コストや手間の削減目的で簡易な足場を組立て、かつ手すりなどの安全設備を欠いていることを起因として災害が多く発生しているという認識があるからです。
支柱間35センチのブラケットに24センチ幅の踏板を使用。中さん手すりは原則として設置しない。中腰の作業のときに前のめりになるおそれがあるから。
支柱に踏板を芯掛けした布板一側の足場。ビケ足場の作業標準では、この場合、15センチ長のブラケットを用いて腰の位置に手すりを設けるが、手すりのない足場も多いという。
 部分二側の取扱いは
 ところで、本足場は建物に平行に建地を二列に組み上げる足場ですが、くさび緊結式足場のような支柱式の足場では、前踏み側(建物側)を2スパンに1本とする部分二側といわれる施工方法が一般的です。ビケ足場の施工方法でも当初から、部分二側を標準仕様としてきました。部分二側が本足場に含まれるかについては議論が分かれるところですが、(一社)仮設工業会の「くさび緊結式足場の組立て及び使用に関する技術基準」(2015年6月発行)では、部分二側は本足場とみなさないと記述しています。
 また、この改正規則では、「障害物の存在その他の足場を使用する場所の状況により本足場を使用することが困難なときは、この限りでない」という条文が追加され、障害物等により建地の一部を1本とする場合に、部分二側を許容する表現になっています。
 厚生労働省は、改正規則の細部を定めた施工通達を2023年3月に労働基準局長名で公表し、「障害物の存在その他の足場を使用する場所の状況により本足場を使用することが困難なとき」を以下のように例示しています。
 ① 足場を設ける箇所の全部又は一部に撤去が困難な障害物があり、建地を2本設置することが困難なとき。
 ② 建築物等の外面の形状が複雑で、1メートル未満ごとに隅角部を設ける必要があるとき。
 ③ 屋根等に足場を設けるとき等、足場を設ける床面に著しい傾斜、凹凸等があり、建地を2本設置することが困難なとき。
 ④ 本足場を使用することにより建築物等と足場の作業床との間隔が広くなり、墜落・転落災害のリスクが高まるとき。
 ①、②については、当該部分について建地を1本とすることができ、③は下屋足場のように屋根上に足場を設置する場合を想定しています(下屋足場は外側の足場と緊結することで安定し、本足場とすることは現実的ではありません)。また、④は、本足場とすることで建築物と作業床の間隔が広くなり、災害のリスクを誘発するようでは本末転倒です。ちなみに、施工通達では、建物と作業床の間隔を30センチ以内とすることが望ましいとしています。
下屋の上に組み立てた足場。外側の足場と取り合いを設け、基本的に前踏み側には支柱を設けない。
 24センチ幅の作業床の二側足場の取扱い
 ところで、この改正規則では、「幅が1メートル未満の場合であっても、可能な限り本足場を使用することが望ましい」としています。40センチ幅の作業床を支えるくさび緊結式足場の建地の間隔は通常60センチです。幅が1mに満たない場合も、建地の間隔を60センチとする場合は本足場とすることが望ましいことになります。この場合、概ね90センチ前後の幅があれば本足場として設置することができます。
 では、ビケ足場のように24センチ幅の作業床を使用し、建地の間隔を35センチとする場合はどうでしょう。この場合も、建地を二列とする本足場とすることが好ましいのでしょうか。
 そもそも本足場とは、労働安全衛生規則563条1項の要件を兼ね備えた足場です。厚生労働省の「足場先行工法に関するガイドライン」(労働基準局長通達、2006年2月)では、「敷地が狭あいな場合等二側足場の設置が困難な場合には、ブラケット一側足場等とすることができる」とし、「ブラケット一側足場であって40センチ以上の幅の作業床を設けることが困難な場合には、24センチ以上の幅の作業床とすることができる」とあります。このように、24センチ幅の作業床は一側足場の範疇と考えるのが妥当です。一側ブラケット足場として施工したときに建物側への傾斜・倒壊を避けるために2スパンに1本の割合で建地を設置しているにすぎません。実際、24センチ幅作業床の足場に本足場仕様の建地や2段手すり、幅木等を設けた場合、作業性や通行性が著しく低下します。また、製造メーカーは中さん手すりと併用すると前のめりになって転落の危険を誘発すると注意喚起しています。
 安全衛生規則改正に対応した足場
 建設業の労働災害は労働安全衛生法の施行以来、長期的には低減傾向にあります。過年度には死亡災害で年2,000人を超えていた時期もありましたが、近年は300人を切るようになっています。一方、死亡災害のような重篤災害では、墜転落による災害の割合が多く、また屋根、梁、足場のようなリスクの高い高所からの事故が一定の割合を占めています。その要因の一つが、安全対策や安全設備の不備によるものということです。
 安全で安心な作業環境の創造を使命とする足場事業者にとって改正規則への対応が必要となるのはもちろん、敷地幅が狭あいな場合であっても安全に配慮した足場づくりを追求しなければなりません。  (文・松田)