足場と債権の消滅時効

足場の工事付レンタルで発生した債権の時効は何年ですか

(2018年4月28日 掲載)

時効イメージ
 一定の時間の経過によって権利が消滅する法律上の制度を「消滅時効」といいます。一般に、民事10年商事5年といわれるように、現在の法律では、債権は10年、債権の中でも商行為にかかるものは5年で消滅時効にかかるとされています。
 ところで、この時効期間にはさまざまな特則があります。代表的なものとして、日常の取引から生じる債権の「短期消滅時効」(民法170条~174条)があり、足場に関係するものとして工事の請負代金3年、商品の売掛金債権2年、レンタル債権(動産の損料)1年などが規定されています。時効は、①長期にわたって存続している事実関係の尊重、②過去の事実の立証困難の予防、③「権利の上に眠る者は保護しない」という法律の建前、を具現化した制度といわれています。なかでも、日常の取引から生じる債権は少額であることが多いうえ、いちいち領収書などの記録を残すことが少ないため、早いとこ権利関係を確定してしまおうという趣旨から短期消滅時効が定められたといわれています。
 とすると、商人間の取引は帳簿に記録され、領収書などの受領証書が発行・保存されることが通例なので、商事債権の5年の消滅時効はともかく、民法の短期消滅時効を適用するのは不当ではないか、という議論がかつてからありました。また、足場を工事付でレンタルした場合、請負工事の3年、あるいは動産の損料の1年のいずれが適用されるのか判然としないように、取引別に異なった時効期間を設けることの合理性にも疑義がありました。そこで、現行の民法が改正されることになり、職業別の短期消滅時効を削除したうえで、債権の種類ごとにまちまちだった時効期間を原則として統一しました。改正民法は、2017年6月に交付され、2020年4月1日に施行されることが決まっています。
民法の時効制度改正 ● 期間の統一
 改正民法では、債権者が権利を行使できるとき(客観的起算点)から10年を経過したときに加えて、債権者が権利を行使することができることを知ったとき(主観的起算点)から5年間を経過したときに債権は時効によって消滅するという規定が追加されました。
 ここで、権利を行使できるときとは、「○日締め○日払い」のように取引先と支払期限の定めがある場合はその日から、特段の定めがない(または、あいまいな)場合は民法ではいつでも請求できるので債権成立の日から時効の起算期間が進行することになります。そして、商取引に基づく請求権について言えば、通常は債権者は期限が到来したことを認識しているので客観的起算点と主観的起算点は一致し、原則的な時効期間は5年となります。
 このように、足場の工事付レンタルで生じた債権は、2020年4月1日までに発生した債権は現行の民法が適用され、それ以降は5年で消滅時効にかかることになります。
 ところで、消滅時効の期間に関する制度の統一は民法に限らず、さまざまな法律の消滅時効の規定に及んでいますが、必ずしも一律というわけではありません。身近な例でいうと、労働基準法の賃金債権の消滅時効は2年のままです。また、交通事故などに起因する不法行為の消滅時効期間は、損害又は加害者を知った時から3年、不法行為のときから20年という一般原則はそのままで、生命・身体の侵害は特例が設けられ、損害および加害者を知った時から5年間に時効期間が延長されました。このように法律によるばらつきが存在することに注意が必要です。
時効の更新と完成猶予 ● 「請求」とは

更新 権利行使の意思を明らかにしたと評価できる事実が生じた場合 裁判上の請求
支払督促
和解および調停の申立て
破産手続参加等
承認
完成猶予 権利の存在について確証が得られたと評価できる事実が生じた場合 催告
仮差押
仮処分

 時効制度改正のもうひとつの要点に、消滅時効の完成を妨げる事由としての「中断」と「停止」を「更新」と「完成猶予」という言葉に変更するというものがあります。
 これは、一定の事由が発生したときに、これまで進行してきた時効期間をいったんリセットし、一から再スタートさせる「中断」の制度を「更新」に名称変更し、時効完成直前に権利者による時効中断を不可能・困難にする事情が発生したときに、その事情が解消された後、一定期間が経過する時点まで時効の完成を延期する「停止」の制度を「完成猶予」に表現変更するというものです。これは意味内容と語感を一致させ、法律の門外漢である一般庶民にも理解を促進する改正といわれています。
 また、言葉の変更にとどまらず、「更新」と「完成猶予」の事由の整理も行われています。
 ところで、現行の民法で時効の「中断」事由とされた「請求」(または「催告」)については、牽強付会の俗説が世に根強く蔓延しています。ここでは、この「請求」(または「催告」)について簡単にふれてみます。
 現行の民法で「中断」事由とされた「請求」は、裁判上の請求、支払督促、和解及び調停の申立て破産手続き参加等、要するに裁判所が関与する手続きを言います。改正民法は、この「請求」を全て「完成猶予」事由とし、その手続きが継続している間は時効が完成しない、そして取り下げ等によって手続きが途中で終了した場合も、その終了のときから6か月が経過するまで時効が完成しないとしています。さらに、これらの手続きが途中で終了することなく確定判決などによって権利が確定したときは「更新」事由に該当することになり、時効期間がリセットされることになります。
 では、「請求書を送りつける」「支払ってくれと催促する」という行為は、時効の「完成猶予」または「更新」の事由である「請求」に該当しないのでしょうか。
 これらは、民法では「催告」と呼ばれ、改正民法では新たに「完成猶予」のひとつに位置付けられました。そして、催告のときから6か月が経過するまでは時効が完成しないとされています。また、催告によって時効の完成が猶予されている間に行われた再度の催告には時効完成猶予の効力が認められないことが明文化されました。なお、現行の民法でも、再度の催告が効力を生じないことについて判例法で確立しています。
 催告は、その記録を残すために内容証明郵便で送付しないと法律上の効力を生じません。
 要するに、催告は、時効の完成が間近な場合に、その完成を猶予して裁判上の手続きを提起するためのツナギの役目を果たすか、相手方に心理的な効果を与えるにすぎません。巷間、流布されているような時効の半永久的な「完成猶予」の効果はなく、改正民法は条文に明文化することでそのことを闡明にしています。(文・松田)