頭つなぎの設置方法と親綱の強度
(ALCアンカーを用いた壁つなぎとの比較)

集合住宅などの1構面が長い建物に設置した足場に「頭つなぎ」として親綱を用いることがありますが、強度は十分ありますか

(2022年6月15日 掲載)

 足場の倒壊を防ぐ
 近年、地球温暖化の影響もあり、季節外れの強風に見舞われることが増えています。足場の施工者にとっては、必要かつ十分な足場の補強を怠らないことがますます重要になっています。
 一般に、低層住宅建築工事で足場が倒壊したり、大きく傾いた事例を検証すると、おおよそ次のような要因が背景にあります。
(1) 先行足場として組み立てた足場が自立安定性を欠いている。
(2) 建方作業後の足場、またはリフォーム工事用の足場であって、ひとつの構面が長く不安定で、かつ所用の補強が不足している。
 ここでは、(2)の場合に、足場の補強として親綱を「頭つなぎ」として用いることの有効性を検討します。

親綱を用いた頭つなぎの施工例
単管を用いた頭つなぎの施工例
ロープの太さと強度(日本工業規格抜粋)
 (単位:kgf)
呼称太さ 12mm 14mm 16mm
ナイロン 2800 3730 4780
ビニロン 1370 1830 2340
ポリエチレン 1420 1900 2430
ポリプロピレン 1440 1920 2470
ハイクレ 1370 1820 2340
ポリエステル 1490 1990 2550
780 1040 1340
綿 740 1000 1340

 頭つなぎとは
 労働安全衛生規則は、足場の倒壊等を防止するため「壁つなぎ又は控えを設けること」とし、その設置要件を定めています(労働安全衛生規則570条)。
 一方、厚生労働省の「足場先行工法に関するガイドライン」では「建築物の構造等により壁つなぎを設けることが困難な場合には、火打ち及び圧縮材を設け、かつ、足場の一面の長さが長い場合には頭つなぎを設けて足場を補強すること」としています。
 これは、このシリーズの別稿でも解説したように、低層住宅建築工事等に用いられる足場の場合、火打ちと圧縮材を併用することで、壁つなぎと同等の効果が期待されるからです。また、火打ちは、圧縮材に対して引張材の役割を果たすものですが、足場の四隅に設置するため、1構面が長すぎると、その効果が中央部に及びません。そこで1面が長い場合は「頭つなぎ」を引張材として代用させます。
 「1面が長い」とは、仮設工業会の「くさび緊結式足場の組立て及び使用に関する技術指針」では「足場の1構面が14m以上」の場合です。
 「頭つなぎ」が引張の効果しかないときは、圧縮材と併用することが必要です。また、頭つなぎ(および圧縮材)の間隔は、労働安全衛生規則の規定に従えば、垂直方向5m、水平方向5.5mごとに設けなければなりません(ただし、補強の効果や足場仕様、設置環境等を考慮する必要がある)。
 ところで、1構面が長い場合、「頭つなぎ」ではなく、本則に戻って、壁つなぎ又は控えを設けても構いません。ガイドラインが「頭つなぎ」としているのは、「壁つなぎ又は控え」を設けることが困難な場合を前提にしているからです。要は、足場の補強が十分に保たれていることが重要です。
 親綱の強度
 「頭つなぎ」はどのように設置するのでしょうか。一般には、足場用単管を対面の建地や布材に掛け渡してクランプで緊結する方法が想定されます。しかし、陸屋根の場合はともかく、切妻や寄棟屋根のような勾配がある場合は単管に水平の力が働くと垂直方向に荷重がかかるため、頭つなぎとして耐力が保てないことがあります。また、搬入できる単管の長さにも制限があります。
 このため、施工現場ではしばしば、「親綱」を頭つなぎとして用いることがあります。
 親綱は、強度や性能が均一な合成繊維のロープが用いられます。一般に、親綱に用いるロープ径は12mm、14mm、16mmの種類があり、それぞれ、素材ごとに表の引張荷重に耐えうる性能があります(※1)
 一方、壁つなぎ用金具は、仮設工業会の認定基準で引張荷重が8.83kN(約900㎏)の強度を有するものです。破断に耐える強度では合成繊維のロープは壁つなぎとなんら遜色ありません。
 注意を要するのは、こうした安全にかかる用品は、材料のバラツキや使用状況による経年劣化を考慮し、安全率が定められていることです。壁つなぎ用金具の安全率は2倍で、許容耐力は約450㎏ですが、紫外線等による経年劣化が著しいロープの場合、安全率が6~8倍に設定されることがあります(※2)。また、繊維ロープは材質により伸びの大きさを考慮する必要があり、破断時の伸び率は約7%から50%の幅があります。たとえば、ナイロンロープは合成繊維ロープの中で最も強度がある反面、破断時の伸びも最も大きいという特徴があります。親綱に関する仮設工業会の旧認定基準では、7kN(714㎏)の引張荷重をかけたときの伸び率を10%以下としています。

ALCアンカーによる壁つなぎが破断し、長手方向の構面が傾いた足場
ALCアンカー引き抜き強度の最大と最小「労働安全衛生研究」Vol2,No2から引用
右が通販サイトで人気No.2と紹介されているALC専用アンカー
左はALCのほかコンクリートにも用いるプレートアンカー(ねじ1本式)
いずれも壁つなぎ本体に比べて強度が劣る
 「頭つなぎ」に親綱を使用する場合は、両端にフックがついています。仮設工業会の認定基準では、フックが破断等に耐えうる強度は11.5kN(1,172kg)以上とされています。なお、親綱ではなく、合成繊維製のロープそのものを頭つなぎに使用するのであれば、フックの強度を考慮する必要がないのは言うまでもありません。
 ALCアンカーを用いた壁つなぎの強度
 強風により足場が倒壊する災害の多くは壁つなぎ材の強度不足に起因するといわれています。この場合、壁つなぎ用金具そのものの強度不足ではなく、設置時の施工不備によって、本来の強度が担保されないことが指摘されています。なかでも、軽量気泡コンクリートパネル(ALCパネル)に設置した壁つなぎ材が損傷し、倒壊に至る事例が多数、報告されています。
 ALCパネルは、軽量で施工性に優れているため、中高層の建築物の外壁に多く、使用されています。足場施工業者にとって、ALCアンカー等を用いて壁つなぎを設置することは日常茶飯事にあります。ところが、独立行政法人「労働安全衛生総合研究所」の研究グループが行った実証実験では、ALCパネルに設置されるアンカーは、壁つなぎ用金具本体に求められる強度に比べて著しく小さく、壁つなぎ用金具がその強度を発揮する前に、アンカー部分で限界強度に達してしまうことを報告しています(※3)
 それによると、ALC用アンカーの引き抜き強度は約140㎏から500㎏で破断にいたり、最も強度のないALC専用アンカーで140㎏から250㎏、ねじ2本式のプレートアンカーでも240㎏から500㎏であったといいます(グラフを参照)。
 強度にバラツキがあるのは、施工者の技量、加力角度、アンカーの設置位置などに左右されるからです。とはいっても、壁つなぎ用金具に求められる強度が900㎏であるのに対して、ALCアンカーの最大強度がその半分ほどでしかないという驚くべき事実は真剣に受け止めなければなりません。
 まとめ
 壁つなぎ材にALC用アンカーを用いる場合は、上記のことを考えると、接地間隔をより密にする必要があります。
 そもそもリスクを計算できない壁つなぎに過度にたよるのは危険です。
 控えの設置できる場合は控えを優先する、また、壁つなぎや控えの設置できない現場はもちろん、そうでない場合も一定の確からしさで強度を担保できる頭つなぎを併用するなど、重層的な補強を心がける必要があります。
 頭つなぎにロープを使用する場合、その簡便さも利点です。ローブは高所であっても比較的安全に設置できます。ただし、ロープの材質や限界を良く理解し、適切な施工を心がけることが大切です。
 規定通りの本数や方法で壁つなぎを設置したから十分というのではなく、その有効性や安全性を検証できることが足場事業者の責任であることを認識しなければなりません。
   (文・松田)