風荷重に対する足場の安全設計

風荷重の影響で壁つなぎ等を2層2スパンごとに設置しなければならないのはどういう場合ですか

(2018年4月17日 掲載)

壁つなぎ1本の負担面積(色付部分)
(2層2スパンごとに壁つなぎを設置した場合)
壁つなぎの負担面積(2層2スパン)
(2層3スパンごとに壁つなぎを設置した場合)
壁つなぎの負担面積(2層3スパン)
 労働安全衛生規則は、単管足場の「壁つなぎ又は控え」の間隔を垂直方向5m以下、水平方向5.5m以下ごとに設置することとしています(570条)。ビケ足場は1層の高さが1.9m、1スパンの長さが最大1.8mであるため、この規定に従えば、壁つなぎ又は控えを2層3スパン以下ごとに設置すれば充足することになります。
 一方、一般社団法人仮設工業会は、壁つなぎの取付間隔は風荷重の影響を検討する必要があり、その結果、基準間隔以下の壁つなぎが必要とされるときはそれに従うこととし、メッシュシートを張ったビル工事用のくさび緊結式足場を「一般的な条件で風荷重の計算を行うと、壁つなぎを2層2スパン以下ごとに設けなければならないことが多い」と述べています(『くさび緊結式足場の組立及び使用に関する技術基準』)。風荷重の計算は、構造力学や流体力学の基礎知識が必要で、素人には難解です。そこで、ここでは仮設工業会が発行している『風荷重に対する足場の安全技術指針』(以下、指針という。)の記述に従い、風荷重と壁つなぎ等による足場の耐力を比較検討してみます。
● 足場の強度
 風荷重の計算は、強風が足場に作用した場合に、倒壊を免れるために足場がどの程度の強度を要するかを明らかにすることが目的です。このため、足場の強度と風荷重の双方向から検討を加える必要があります。
 構造物の強度は、それを構成する部材の強度(応力)の組み合わせで形成されます。また、足場は、建物に併設して設置されることがほとんどで、転倒防止のための壁つなぎなどを躯体側に設けます。
 指針は「足場は自立することはない」という前提で、「足場は構造骨組の変型性状が一体性に乏しい」ため、風荷重が「作用する面積をつなぎ材、ステーワイヤーロープあるいは方杖の1本が負担する面積」としています。つまり、壁つなぎ等の負担面積に作用する風荷重が、壁つなぎの許容耐力以下であれば、当該足場は安全であるというわけです。
 壁つなぎ用金具は、厚生労働省の構造規格で4.41kN(※1)以上の許容耐力を有することが定められています。そこで、2層3スパンごとに壁つなぎを設置した場合と、2層2スパンごとに壁つなぎを設置した場合の風荷重のそれぞれの総和を計算し、壁つなぎの許容耐力と比較検討してみます。
● 風荷重の計算(設計用速度圧)
 風荷重は、風の力である風圧と、それを受容する足場の形状によって左右されます。指針では、足場に作用する風の力を設計用速度圧として計算し、足場が受容する割合を風力係数として導き出しています。
 風荷重の計算式は次の通りです。
 足場に作用する風圧力(N) = 地上高さZ(m)における設計用速度圧(N/㎡) × 足場の風力係数 × 作用面積(㎡)
 地上高さZ(m)における設計用速度圧は、空気密度と風速の2乗に比例し、次の概算式で求められます。
 地上高さ(Z)における設計用速度圧 = 0.625 × 地上Zにおける設計風速(m/s)の2乗
 地上Zにおける設計風速は、基準風速に補正係数を乗じて算出した数値です。なお、基準風速は、再現期間(※2)12か月で、台風接近時の観測値を除外しています。計算式は次の通りです。
 地上Zにおける設計風速(m/s) = 基準風速(m/s) × 台風時割増係数 × 地上Zにおける瞬間風速分布係数 × 近接高層建築物による割増係数

基準風速 14m/s ただし、14m/s~20m/sの範囲で、地域ごとに2m/sのきざみで設定する。地域別の基準風速はここをクリック
補正係数 台風時割増係数 台風接近時の対策が行われないときに地域により1.0~1.2を乗じる。台風割増係数と適用地域はここをクリック
地上Zにおける瞬間風速分布係数 地上からの高さと田園地帯や市街地などの立地条件に応じて1.07~1.99を乗じる。瞬間風速分布係数はここをクリック
近接高層建築物による割増係数 50m以上の高さの高層建築物が近接してある場合に1.1~1.3を乗じる(詳細は割愛する)

● 風荷重の計算(風力係数)
 足場の風力係数は、次の式により求められる。
 足場の風力係数 = (足場の第1構面(後踏み側)の風力係数 + 足場の第2構面(前踏み側)の風力係数 + シート、ネット、防音パネル等の風力係数) × 建物に併設した足場の設置位置による補正係数
 要するに、足場を二側で施工した場合の後踏み側足場と前踏み側足場のそれぞれの風力係数にシート等の風力係数を加算した総和を足場の風力係数としています。各項目は、下表により求めることができる。

足場の風力係数 足場の第1構面の風力係数 0.11
足場の第2構面の風力係数 0.09 × (1 - Φ)
第1構面だけで構成される足場の風力係数は0。また、帆布製シートや防音パネルが取り付けられている場合も充実率1のため風力係数は0となる
※ Φはシート、ネットの充実率(※3)(以下同)
シート、ネット、防音パネル等の風力係数 0.945 × シート等の基本風力係数 × シート等の縦横比による形状補正係数
○基本風力係数は次式で求める
抵抗係数(K) = 1.2Φ/(1-Φ)2 とし
0≦K≦0.73 のとき
 : 基本風力係数 = K/(1+K/4)2
K>0.73 のとき
 : 基本風力係数 = 2.8log(K+0.6-(1.2K+0.36)1/2)-2.8logK+2.0
○シート等の縦横比による形状補正係数は次式により求める
形状補正係数 = 0.5813+0.013×縦横比-0.0001 × 縦横比2
ただし、縦横比≦1.5のときは形状補正係数0.6、縦横比≧59のときは形状補正係数1.0
縦横比はシート等が空中にあるか、地上から建っているかによって違い、空中の場合は縦横比=長さ÷高さ、地上から建つ場合は縦横比=2×高さ÷幅となる
建物に併設した足場の設置位置による補正係数 独立して設置された足場 1.0
建物外壁面に沿って設置された足場 建物に向かって押す風力
 上層2層部分 1.0
 その他の部分 1.0+0.31Φ
建物から引く風力
 開口部付近 -1.0
 隅角部から2スパンの部分 -1+0.23Φ
 その他の部分 -1+0.38Φ

● 許容応力などの割増
 壁つなぎ等の許容耐力を検討するにあたって、指針は「風荷重は足場に常時作用するものではなく、作用した場合でも風の特性により比較的瞬間的な荷重である」ため「部材に生じる作用応力の大部分が風荷重による場合には、許容応力及び許容耐力は3割を限度として割増することができる」としています。
 たとえば、壁つなぎの許容耐力は4.41kMのため、足場に作用する力が風荷重だけの場合は、4.41×1.3=5.73kNを許容耐力と考えることができます。

風荷重検討例
(その1)
高層建築物
(その2)
中層建築物
● 風荷重に対する足場の強度計算例
 実際に、ビル工事用足場に必要な壁つなぎの間隔を検討してみます。
○検討例その1
 当社の本社がある大阪府下で、一般市街地にある高さ30m、横幅40mの建物に足場を4面、組み上げたという条件で計算します。足場は、建物より1m高く31mまで組み上げ、足場全長は1.7mを加えた41.7mとします。また、充実率(Φ)=0.7のメッシュシートを取り付けます。
 大阪府下の基準風速は16m/s、台風時割増係数は1.0、瞬間風速分布係数は1.36で、近接高層建築物による影響はありません。このため、設計用速度圧は、0.625×(16×1.0×1.36×1.0)2=296N/㎡となります。
 次に、風力係数を計算します。
 充実率0.7のときの基本風力係数は1.57、シートの縦横比は1.5以下のため形状補正係数は0.6です。建物に向かって風力が作用する場合、上層2層部分以外の風力係数は、(0.11+0.09×0.3+0.945×1.57×0.6)×(1+0.31×0.7)=1.25です。
 設計用速度圧と風力係数が分かれば、この積を作用面積に乗ずると足場にかかる風圧力を求めることができます。
 風荷重が2層3スパンに作用する場合は、296×1.25×20.52=7,592=7.59kN、2層2スパンに作用する場合は、296×1.25×13.68=5,062=5.06kNです。これを壁つなぎの許容耐力5.73kNと比較すると、2層3スパンごとに壁つなぎ設置した場合は許容耐力以上の風圧力が作用するため強度が不足し、2層2スパンであれば安全ということになります。
○検討例その2
 高さ30mといえば10階建てに相当する建物で、高層建築に分類されます。ここでは5階建てまでの中層建築物についても検討してみます。
 高さ15m、横幅20mの建物を同一の条件で足場を組み上げた場合、上記の検討例と違うのは、瞬間風速分布係数が1.25となることです。これを、2層3スパンに作用する風圧力に換算すると6.4kN、2層2スパンに作用する風圧力は4.27kNです。この場合も、2層3スパンの間隔では強度が不足することになります。
 このように、指針に従えば、ビル工事用足場に壁つなぎを2層3スパン以下ごとに設置した場合、強度が不足する場合があるということができます。
 なお、上記は、大阪府下の基準風速16m/sという立地条件で計算していますが、基準風速14m/sの地域の中層建築物の場合は2層3スパンに作用する風圧力は4.9kNとなり、壁つなぎの許容耐力以内に収まります。また、立地都道府県に関わらず瞬間風速分布係数で「郊外・森」「草原・田園」「海岸・海上」に区分される地域は2層2スパンでも壁つなぎの強度が不足するという計算結果になることがあります。当然のことながら、シートの充実率によっても風荷重は大きく変動します。
 このように、壁つなぎなどによる足場の補強は、足場の設置状況を考慮して適切な対応を検討する必要があります。
● その他の検討
上層2層部分
 上記の計算例では、足場の最上層部分の風荷重は考慮せずに計算しました。仮に、建物の最上部に壁つなぎを取付けたとすると、その壁つなぎ(右図R)に作用する風圧力はA点回りの力のモーメントのつり合いにより、次の計算式で求めることができます。
 最上部の壁つなぎにかかる風圧力 = 設計用速度圧(N/㎡) × 足場の風力係数(設置位置による補正前) × 壁つなぎの水平方向の間隔(m) × (上層2層の高さ(m) × 上層2層の合力の位置までの距離(m) + 設置位置による補正係数 × 上層2層以外の部分の高さ(m) × 上層2層以外の部分の合力の位置までの距離(m)) ÷ 壁つなぎの垂直方向の間隔(m)
 検討例その1では、2層3スパンに壁つなぎを設置した場合で5.05kN、2層2スパンに壁つなぎを設置した場合で3.37kNになります。いずれの場合も壁つなぎの許容体力5.73kNを超えません。
 壁つなぎの間隔の検討で注意を要するのは、壁つなぎの許容耐力だけでなく、その取付部が壁つなぎと同等以上の強度を有していることです。壁つなぎ以下の許容耐力しかない場合は、取付部の強度が壁つなぎの強度と同一視されます。
 ところで、部材の許容耐力や許容応力は一定の安全率を見込んだ数値です。壁つなぎの許容耐力は、実証試験で2以上の安全率が求められます。また、風荷重の概算の計算は、いくつかの点で安全側に設定されています。このため、強風に対する壁つなぎ等の許容耐力が不足するといっても、ただちに足場の倒壊に結びつくというわけではありません。とはいえ、指針の基準に従えば、安全性は実証されているということができます。(文と絵・松田)
※1 ニュートン(記号N)は、国際単位系(SI)における力の単位。1kg=9.8N 1kN=1000N (9.8は地表面近くの重力加速度)
※2 再現期間 一定の強度をもった自然現象が再び発生するまでの期間を「再現期間」という。「再現期間1年の強風」とは、1年に一度程度の発生頻度で繰り返される強風をいう
※3 充実率 充実率は空隙を含むシートの全体面積に占める実面積の割合