足場の高さの定義

法令上、足場の高さはどこからどこまでをいうのですか

(2017年9月26日 掲載)

「足場の高さ」が問題になる場合
 足場の組立てや使用に関する法令や基準には随所に「足場の高さ」についての記述があります。
 たとえば、足場の組立て等の作業に伴う危険防止のための事業主の措置義務を定めた労働安全衛生規則564条は、「2m以上の構造の足場」を対象としています。 足場の組立て等作業主任者の選任は「高さ5m以上の構造の足場」の作業に必要です(安全衛生法施行令6条)。 また、一般社団法人仮設工業会の「くさび緊結式足場の組立て及び使用に関する技術基準」は「高さ45m以下」のくさび緊結式足場に適用されます。 とはいえ、足場の高さが厳密な意味で問題になることはそれほど多くはないでしょう。
 一方、労働安全衛生法88条では、「高さが10m以上の構造」の足場で組立から解体までの期間が60日以上の場合は労働基準監督署への事前申請が必要です。 この場合は、高さの判断基準が煩雑な申請手続きの必要性と直接、関係することになります。
法令が定める「足場の高さ」とは
 足場の高さは、人間の身長のように外見上の高さではありません。
 法令が定める「足場の高さ」とは構造上の高さで、基底部(地盤面)から構造上重要な部分までの高さです。
 厚生労働省は、足場の高さを次のように説明しています(労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について/平27基発0331第9号)。
 ① 作業床が足場の最上層に設置されている場合には、基底部から最上層の作業床までの高さ
 ② 作業床が足場の最上層に設置されていない場合には、基底部から
  ア わく組足場では、最上層の建わくの上端までの高さ
  イ 単管足場等支柱式の足場では、最上層の水平材(布材等の主要部材)までの高さ

ビケ足場の高さ
(青色の部分が作業床)
 一般に、わく組足場は作業床が「布」に該当します。 布と建わく(交差筋かい)で構造材を形成するため、最上層の作業床、または作業床の上に建わくを設けたときはその上端までが足場の高さになります。
 同様に、支柱式足場も作業床が「布」に該当しますが、作業床からの墜落防止のために設ける手すりも一定の強度を有する場合は「布」とみなされます。
 仮設工業会の「くさび緊結式足場の組立て及び使用基準」では「緊結部付布材を手すり兼用として設置する場合は、 この手すりは足場の構造部材であるため、墜落の危険がない場合であってもこれを取り外してはならない」と述べています。この「布」は水平材と同義ではなく、足場の構造材としての役割をになう狭義の「布」を意味しています。 つまり、最上層にある構造材までを足場の高さとすると、支柱式足場の最上層にある「布材等の主要部材」である手すりが足場の最上端ということになります(図の上)
 ここで問題なのは、「布材等の主要部材」の範囲です。
 たとえば、根がらみとして設置された手すりは、構造材ではないため「布」ではありません。労働安全衛生規則の規定する「地上第一の布」にも該当しません(本欄の「地上第一の布」で詳説)。 同様に、屋根からの墜落防止目的で設置する手すりも、構造材としての「布」とは解釈できません。
 「足場先行工法に関するガイドライン」(厚生労働省)では「布の間隔は、2m以下とすること」という規定があります。 この「布」は足場の各層を形成する構造材で、作業床と手すりが補完しあったものです。
 ところで、ビケ足場の設置基準では、住宅工事用足場の軒先のレベル(踏板から1900㎜の高さ)にも屋根からの墜落防止用手すりを設けます。 また。屋根からの墜落防止用手すりが必要でない場合などでもメッシュシートを貼付するために最上層の作業床から1層分(1900㎜)の高さに手すりを設けることがあります。 この場合は、②のアが建わくの上端としていることとの整合性から、この手すりを最上層の「布」(構造材)と解釈することもできます(図の下)
 くさび緊結式足場の手すりが「布」とみなされるには、構造材として用いられるだけでなく、先述したように一定の強度が必要です。 一定の強度とは、仮設工業会が緊結部付布材として認定した外径42.7㎜以上の強度を有する手すりのような場合です。
 なお、法令の解釈は必ずしも一義ではありません。労働安全衛生法88条申請などで迷った場合は所轄の労働基準監督署に相談されることをお薦めします。
構造上の高さから類推される全層全スパンとは
 足場の構造上の高さは、最上層の構造材までの高さであると解説しました。要するに、地上の層から1層、2層と積み重ねた最上の層の上端が足場の高さということです。この場合、住宅工事用足場で屋根上に突き出た部分は、最上層に含まれません。
 ところで、筋かいは、足場の外側鉛直の構面に「全層全スパンにわたって設けること」(足場先行工法に関するガイドラインほか)となっています。 ここでいう全層は、最上層の上端の構造材までか、あるいはその上の屋根からの墜落防止用手すりの最上段の手すりまでの、どちらを言うのでしょうか。 いかにも枝葉末節の問題ですが、実際にはこうした議論が存在します。 くさび式足場用の専用筋かいを用いた場合、1800のスパンが連続したときは垂直方向の高さが最上層の上端で途切れてしまうからです(上図の下)
 常識的に考えると、屋根からの墜落防止用に飛び出た部分に筋かいがなくても足場の強度にはほとんど影響しません。 こうした議論には、全層とは、足場の構造上の高さまでと反駁することができます。(文・松田)