安全帯の新しい規格

古い規格の安全帯が使えなくなりました。その概要を解説してください

(2021年12月28日 掲載)

墜落制止用器具の新規格に関する法令の体系
足場上でのフルハーネス型安全帯を使った作業
ハーネス型墜落制止用器具
(厚生労働省のリーフレットから)
 安全帯が墜落制止用器具に
 労働安全衛生法42条は、危険、有害な作業を必要とする機械等のなかで「政令で定めるものは、厚生労働大臣が定める規格又は安全装置を具備しなければ、譲渡し、貸与し、又は設置してはならない」と定めています(これを構造規格という)。政令とは、労働安全衛生法施行令のことで、その13条3項28号に「安全帯(墜落による危険を防止するためのものに限る)」の記述がありましたが、今回の改正で名称が「墜落制止用器具」に改められました。
 安全帯の規格は、2002(平成14)年に「安全帯の規格」(厚生労働省告示第38号)として公示され、構造や強度・性能が規定されていましたが、今回の改正に伴い、「墜落制止用器具の規格」(2019(平成31)年厚生労働省告示第11号、以下改正規格という)に改められました。改正規格の適用日は2019年2月1日ですが、経過措置として、旧規格の安全帯(腰ベルト型・フルハーネス型)も販売や使用が認められていました。この経過措置が2022(令和4)年1月1日に終了することになるため、旧規格の安全帯は、その翌日の1月2日から販売や使用が禁止されます。
 墜落制止用器具の規格改正と並行して、安全帯に関するJIS規格(「安全帯JIS T 8165:2012」)が改正され「墜落制止用器具T 8165:2018」が公示されました。そして、今後の技術進展に迅速に対応するためとして「墜落制止用器具の規格」は性能要求等の大枠を規定し、詳細な仕様や試験方法等はJISを引用することになります。
 また、労働安全衛生規則は、一定の場合に安全帯を労働者に使用させることを事業主に義務付けています。この「安全帯」を「墜落による危険のおそれに応じた性能を有する墜落制止用器具(要求性能墜落制止用器具)」に変更し、作業内容や作業箇所の高さなど応じて、それに適合する墜落制止用器具を使用することとしました。同時に、「墜落制止用器具の安全な使用に関するガイドライン」(2018(平成30)年6月基発0622第2号、以下ガイドラインという)が公表され、墜落制止用器具の選定基準が示されたほか、使用方法や保守・点検・保管・廃棄の基準も盛り込まれています。
 労働安全衛生規則の改正では、労働安全衛生法59条3項の特別教育の対象となる業務に、「高さ2m以上の箇所であって作業床を設けることが困難なところにおいて、墜落制止用器具のうちフルハーネス型のものを用いて行う作業に係る業務(ロープ高所作業に係る業務を除く)」も追加されています。

(厚生労働省のリーフレットから)
 「墜落による危険の恐れに応じた性能を有する」(要求性能)とは
 改正規格では、従来の安全帯に含まれていたU字つり用胴ベルトが、身体を作業箇所に保持するための器具であって墜落を制止する機能がないとして除外されました。U字つり用腰ベルトとは、電柱などの柱上作業で、身体を柱に固定する器具のことです。
 このため、墜落制止用器具は、フルハーネス型と1本つり用の胴ベルト型の2種類のみになりましたが、フルハーネス型の使用が原則とされ、腰ベルト型は「墜落時にフルハーネス型の墜落制止用器具を着用する者が地面に到達するおそれのある場合」(ガイドライン)、つまり一定の高さ以下で使用する場合に限られることになります。一定の高さとは、「6.75mを超える高さの箇所」ではフルハーネス型を使用しなければならないとしています(改正規格、ガイドライン)。また、建設業では5mを超える箇所で作業を行う場合はフルハーネス型が推奨されます(ガイドライン)。身体の腰部に着用する胴ベルト型に比べ、フルハーネス型はランヤードを接続するD環の位置が肩甲骨の中心辺りにあるため、その分、落下距離が長くなる特徴があるからです。
 改正規格の特徴のひとつは、フルハーネス型のランヤードにショックアブソーバ(※1)の機能を必然としたほか、使用状況に応じて第1種と第2種を使い分けることを求めていることです。フックをかける位置が腰より高くなる場合は第1種を、鉄骨組み立て作業などで足元にしかフックの取付設備がない場合は第2種を使用します。第1種は、重りを使用した試験で、自由落下距離(※2)1.8mで、衝撃荷重4kN以下、ショックアブソーバの伸び1.2m以下、第2種は自由落下距離4mで、衝撃荷重6kN以下、ショックアブソーバの伸び1.75m以下の性能を有するものです。
 イラストのように、第2種のショックアブソーバは、フックをかける位置の高さが混在する作業にも使用しますが、基本的には、できるだけ高い位置、少なくとも腰より高い位置にフックを取り付け、第1種のショックアブソーバを使用することが望ましいとされています。
ハーネス型墜落制止用器具/ショックアブソーバ
(厚生労働省のリーフレットから)
ハーネス型墜落制止用器具/ショックアブソーバ
(厚生労働省のリーフレットから)
ハーネス型墜落制止用器具(体重100㎏の者)
(厚生労働省のリーフレットから)
 また、安全帯の旧規格では、ランヤードの長さを2.5m以下、フック、コネクタ等にかかる衝撃荷重を8kN以下としていましたが、改正規格では胴ベルト型を長さ1.7m以下、衝撃荷重を4kN以下に改めました。胴ベルト型は、低い箇所で使用し、フックを腰より高い位置に取り付けて自由落下距離が比較的に短かくなる作業を前提にしているからです。
 墜落制止器具の使用可能な最大質量も細かく設定されました。旧規格の安全帯は85㎏の質量の落下試験をクリアした場合に合格とされましたが、改正規格では100㎏、85㎏、特注品の区分があります。
 ランヤードの長さは当然、墜落時に地面に衝突しない余裕が求められます。ロック機能付き巻取り式ランヤードは墜落時にロックがかかり、ランヤードが伸びきらないので低い場所での作業に有利です。さらに、フルハーネス型のサイズは着用者の体型(身長、体重)に適したものであることも求められます。身体にフィットせず、遊びが大きいと墜落時の落下距離を大きくしたり、吊り下がり時の体勢に影響するからです。
 このように、新しい安全帯である墜落制止用器具は、使用の状況や着用者の体型に応じた適切なものであることが求められます。

 安全帯の使用が必要とされる作業
 労働安全衛生法21条2項は「事業者は、労働者が墜落するおそれのある場所、土砂等が崩壊するおそれのある場所等に係る危険を防止するため必要な措置を講じなければならない」としています。墜落による危険を防止するための措置のひとつが墜落制止用器具(あるいは安全帯)であることは言うまでもありません。
 では、労働安全衛生規則では、どのような作業に安全帯を使用させることを求めているのでしょうか。
 作業の種類について言えば次の3つです。
① 高所作業車(作業床が接地面に対し垂直にのみ上昇し、又は下降する構造のものを除く)を用いて作業を行うとき(第194条22)
② ロープ高所作業を行うとき(第539条7)
③ 足場の組立て、解体又は変更の作業で、足場材の緊結、取り外し、受渡し等の作業を行うとき(ただし、同等以上の効果を有する措置を講じたときは、この限りでない)(第564条1項4号ロ)
 いずれも作業に内包する墜落の危険に由来する規定です。
 一方、作業の次の場面では、作業の種類にかかわらず、墜落制止用器具の使用が求められます。
「事業者は、高さが2メートル以上の箇所(作業床の端、開口部等を除く)で作業を行なう場合において墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない。
2 事業者は、前項の規定により作業床を設けることが困難なときは、防網を張り、労働者に要求性能墜落制止用器具を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない」(第518条)
「事業者は、高さが2メートル以上の作業床の端、開口部等で墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所には、囲い、手すり、覆おおい等(以下この条において「囲い等」という。)を設けなければならない。
2 事業者は、前項の規定により、囲い等を設けることが著しく困難なとき又は作業の必要上臨時に囲い等を取りはずすときは、防網を張り、労働者に要求性能墜落制止用器具を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない」(第519条)
 このように、2m以上の箇所で墜落の危険がある場合は、作業床を設け、その端部に手すり等を設けることが必要で、それが困難な場合に墜落制止用器具を使用することが求められています。作業床の設置や手すりを設けるなどによって安全な作業環境をつくることが何より大切で、墜落制止用器具の使用はその代替手段であることを押さえておく必要があります。  
 (文・松田)

※1 ショックアブソーバ 墜落したときに身体にかかる衝撃を緩和する装置。ランヤードが緊張した時に、ショックアブソーバが伸びて身体への負荷を抑える
※2 自由落下距離とは、墜落後、ショックアブソーバが作動するまでの距離。ランヤードの長さにランヤードを接続する部分の身体側と設備側の高さの距離を加減して計算する。身体側が高ければ加算し、低ければ減じる。自由落下距離は必ず落下する距離である。
 一方、落下距離は、自由落下距離に墜落制止時のランヤードの伸びや墜落制止器具本体の伸び等を加算した数字。ランヤードの耐衝撃性能や器具の着用状態によって左右される。