労働安全衛生規則の改正(2015.7.1) 第2回

足場の組立て等の作業に対する墜落防止対策の強化に関する規則の改正内容を教えてください

(2015年3月26日 掲載)

 労働安全衛生法(以下、安衛法という)は、「職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進すること」を目的に制定された法律ですが、その中心は、事業内における安全衛生管理体制の確立と、個別的な危険有害対象に対する安全衛生措置の実施に関するものです。 なかでも、危険有害対象に対する個別的措置基準は重要です。 その内容は広範囲で多岐にわたり、技術的な要素を多数含み、また社会情勢の変化に合わせて適宜、見直ししていく必要があることから、その多くを労働安全衛生規則(以下、安衛則という)などの省令に委任する構造になっています。
 改正安衛則(2015.7.1)には、足場の組立て等の作業に関する墜落防止措置の強化が盛り込まれました。 その背景には、足場からの墜落・転落災害のうち、足場の組立て等の作業中の割合が30%を占め、死亡災害に至っては46%と約半数に達していることがあげられます。 また、足場最上層からの墜落事故では、安全帯を使用していない事故の割合が墜転落災害の90%を超え、安全帯の取付け設備さえないものが80%近くに達するということです。(2009~2011年度の統計)。
 そこで、今回は、改正安衛則の中の足場の組立て等の作業にかかる部分を概観し、第3回(最終回)で残された部分の全てにふれることにします。
 また、末尾に、改正安衛則の概要を記載します。
 ところで、企業は、人・物・金の3要素で構成されているといわれます。 改正安衛則では、人の面として「足場の組立て等の業務の特別教育への追加」が、物の面として「足場の組立て等の作業にかかる墜落防止措置の充実」が規定されました(金の面の法規制は存在しない)。
 この順に従い、以下、見ていくことにします。
足場の組立て等の業務の特別教育への追加
 労働安全衛生法61条は特定の危険な業務について、都道府県労働基準局長の免許を受けた者や指定講習機関が行う技能講習を修了した者でなければ、就業を禁止する就業制限の制度を設けています。 たとえば、クレーンの運転、クレーンの玉掛け等の業務は、それぞれ免許、技能講習等の資格要件が定められています。
 一方、一定の危険有害な業務であっても、就業制限の対象業務に準ずる場合は、積極的に知識や技能を習得させる観点から、事業者がその業務に従事させるときに特別教育を実施することにとどめています(労働安全衛生法59条3項)。
 特別教育の対象とされる業務は、社会情勢の変化に応じて適宜見直されてきましたが、今回の改正で「足場の組立て、解体または変更の作業にかかる業務」が新たに追加されることになります(安衛則36条39号)。
特別教育の内容や実施方法
 特別教育の教育項目や教育時間は、業務の種類に応じて厚生労働省の告示で細目を定めることになっています(安衛則39条)。 足場の組立て等の業務については、次の学科教育の内容が規定されました(安全衛生特別教育規程の一部を改正する告示/平27厚生労働省告示114)。
 1 足場及び作業の方法に関する知識(3時間)
 2 工事用設備、機械、器具、作業環境等に関する知識(30分)
 3 労働災害の防止に関する知識(1時間30分)
 4 関係法令(1時間) 合計6時間
 ( ) 内は、教育時間ですが、改正安衛則の施行日に足場の組立て等の業務に従事する者は、各教育科目の半分の時間でよいことになっています。
 講師の資格要件は法令で定められていません。が、当然のことながら、教育科目について、十分な知識、経験を有する者です(昭48基発145)。
 教育は、本来事業者が実施すべきものです。 とはいえ、労働災害防止団体等が行う厚生労働省の告示に定める要件を満たす講習を受講したことが明らかなときは改めて教育を実施する必要がないものと取り扱われます(昭47基発601-1号)。 事業者に教育の体制が備わっていない等の場合には、こうした代行機関に教育を委託することになります。 なお、これらの機関は、事業者に代わって特別教育を実施するだけでなく、事業所内部の講師の育成についてもプログラムを用意しているようです。
 特別教育を実施したときは、受講者の氏名や教育科目を作成し、3年間保存しておく必要があります(安衛則38条)。
特別教育の受講義務者の範囲
 ところで、足場の組立て等にかかる業務については、作業主任者技能講習の制度があります。技能講習は特別教育に対して上位の資格になります。 技能講習を修了した者は、十分な知識と技能を有していると認められるため、改めて特別教育を受講する必要がありません(安衛則37条)。
 また、改正安衛則の特別教育には経過措置があります。 施行日の2015年7月1日現在、足場の組立て等の業務に従事している者は、2017年6月30日までの間は特別教育の受講が猶予されます。 つまり、2年間の間に、特別教育を受講するか、作業主任者の技能講習を修了する必要があります。
足場の組立て等の作業にかかる墜落防止措置の充実
 足場の組立て等の作業について、事業者は墜落防止措置等を講じなければならないとされています(安衛則564条)。 措置を講ずべき作業の範囲は、これまで「つり足場(ゴンドラのつり足場を除く)、張出し足場または高さが5m以上の構造の足場の組立て(等)」(安衛法施行令6条15号)としていましたが、改正安衛則では、高さが2m以上の構造の足場にまで拡大されます。 なお、ここで足場の構造上の高さとは、わく組足場は最上部の建わくの上端までをいい、そのほかの支柱式の足場は最上の水平材(布材等)までの高さを指しています。
 また、講ずべき措置として、現行の安衛則は、①組立て等の時期等を作業に従事する労働者に周知させる 、②組立て等の作業を行う区域内の関係労働者以外の労働者の立入りを禁止する、③悪天候のため、作業の実施について危険が予想されるときは作業を禁止する、④足場材の緊結等の作業にあっては、幅20㎝以上の足場板を設け、労働者に安全帯を使用させる等労働者の墜落による危険を防止するための措置を講ずる、⑤材料等を上げ、又はおろすときは、つり網等を労働者に使用させることの5つを規定しています。
 改正安衛則は、この中の④について、「幅20㎝以上の足場板」を「幅40cm以上の作業床」に変更し、たんに、「労働者に安全帯を使用させる」だけではなく、「安全帯を安全に取り付けるための設備を設け、かつ、労働者に安全帯を使用させる措置を講ずること」を明文化しました。 ただし、それぞれに例外規定があり、作業床については、設けることが困難なときは適用が除外され、安全帯を取り付ける設備は同等以上の効果を有する措置でも代用可能です。

安全帯1 安全帯2 安全帯3
 幅40㎝以上の作業床を設けることが困難な場合とは、①狭小な場所に作業床を設ける場合、②昇降設備を設ける場合、③つり足場の組立作業で幅20㎝以上の足場板を交互に移動させながら作業を行う場合、の3つの例示があります(パブリックコメントへの回答)。
 また、「安全帯を安全に取り付けるための設備」とは、「安全帯を適切に着用した労働者が落下しても、安全帯を取り付けた設備が脱落することなく、衝突面等に達することを防ぎ、かつ、使用する安全帯の性能に応じて適当な位置に安全帯を取り付けることができる設備」と説明されています(パブリックコメントへの回答)。
安全帯を安全に取り付けるための設備とは
 安全帯は一般的に、腰の位置より高いところにかけ墜落時の衝撃荷重を少なくすること、作業位置に近接した場所にかけ墜落時に振り子状態にならないようにすること、開放部がある構造体にかけないこと、墜落時にフックに曲げ荷重がかかるようなかけ方をしないことが必要といわれています。
 わく組足場は層ごとに足場を組み上げます。また、建わくを設置した後に交さ筋交いを取り付けます。
 このため、足場の組立てや解体の作業では安全帯をかける適当な構造体がない状態での作業を余儀なくされます。 こうした作業では、先行手すりや親綱あるいは親綱支柱を安全帯の取付け設備として確保する必要があります。
 一方、ビケ足場のような支柱式の足場では比較的容易に安全帯の取付け設備を足場の組立て作業に先行して設置することができます。
 ビケ足場の組立てでは、手すりが取付けされていない層に移動するときでも、すでに支柱が建ちあがっている状態になるように作業手順を設定することができます。 また、手すりの取り付けは、すでに完成したスパンを起点に作業します(図2参照)。
 近年、くさび緊結式の足場では、ビケ足場をはじめ、多くの製造メーカーが手すり先行式の部材を開発しています(図1)。 手すり先行足場の手すりが安全帯の取付け設備として有効なのは言うまでもありませんが、正しい作業手順によって組立てた手すり先行式でないビケ足場も、足場最上層での適切な安全帯の取付け設備を設けることができます。
 右図では、支柱の設置手順が図3となるときは、安全帯取付け設備として親綱等を設けなければなりません。
手すり先行工法による場合の安全帯取付け設備の要否
 安全帯の取付け設備および安全帯の使用と「同等以上の効果を有する措置を講じたとき」は、先にふれたように、改正安衛則の墜落防止措置は必要ありません。
 手すり先行工法で組み立てた場合に、この例外措置に該当するかどうかについては、「手すり先行工法による手すり」は、「一般的に、足場の外側のみに採用されることが多く、足場の外側」には墜転落防止効果が期待できても「躯体側からの墜落の危険」は残るため、先行手すりが「同等以上の効果を有する措置」とはいえず、安全帯取付け設備として安全帯を使用する必要があるとしています(パブリックコメントへの回答)。
 いずれにしろ、足場事業者としての自覚と責任をもって、安全な作業環境の形成に一層、努めていくことが必要です。(文と絵・松田)

労働安全衛生規則改正(2015.7.1)の概要 ※図中、(2)の②、(4)(5)は次回に解説します。
項目 主な内容 掲載回
(1) 足場の組立て等の業務の特別教育への追加 足場の組立て等の作業にかかる業務(地上または堅固な床上での補助業務をのぞく)を特別教育の対象とする 第2回(今回)
(2) 足場の作業床にかかる墜落防止措置の充実 ① 床材と建地のすき間は12㎝未満 第1回
② 手すり等の墜落防止措置を設けない場合や取り外す場合の要件に「当該箇所への関係労働者以外の者の立ち入りを禁止」を追加
作業の必要上臨時に取り外したときは、作業終了後ただちに復元
第3回
(3) 足場の組立て等の作業にかかる墜落防止措置の充実 ① 事業者が措置を講ずべき5mから2mの構造の足場まで拡大
② 足場材の緊結等の作業を行うときは幅40㎝以上の作業床を設ける(現行20㎝以上)
③ 安全帯取付設備の設置(と安全帯を使用させる措置)
第2回(今回)
(4) 鋼管足場にかかる規定の見直し 建地の最高部から測って31mを超える部分の建地について、建地の下端に作用する設計荷重(足場の重量に最大積載荷重を加えた荷重)が最大使用荷重(破壊に至る荷重の1/2以下)を超えないときは、鋼管を2本組みとすることを要しない 第3回
(5) 注文者(一般的には特定元方事業者)の点検義務 足場(または作業構台)の組立て、一部解体、変更のあと、作業開始前に、足場の状態を点検し、危険のおそれがあるときはただちに修理すること 第3回